Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
だが、塙江漢は、忘れていた。
一緒に伴って来た彼のことも。いや、すべての現実も。いやいや、自分の身をすらも。
彼の魂に今あるものは、きょうの夜明けと同時に、無残な刑刀の錆となる運命にある一子郁次郎のことばかりだった。鬼となっても、我が子を、冤罪の獄舎から助け出さなければならぬという、燃えるが如き父性愛以外に、何ものもなかった。
「ああ、朝までに、朝までに」
彼は、狂わしく、拳を振って行く。
「郁次郎、郁次郎」
と、遠心的な、叫びを投げたり、うるんだ眼をして、訴えるように、星を見たり……。
そして、その足すらも、大地につかぬように、暗い河岸を、的もなくひょろひょろと、彷徨い出した。
「もしッ、老先生」
追い縋った耀蔵に、その片袖をつかまれて、江漢は初めて、余りにも取りみだした自分の態度に、はっとして、われに返った。耀蔵の顔を、じっと、異様に光る眸の中にいれた。
「おうっ、加山か」
「如何なさいました、奉行所でのお話の結果は。――もしや、ご気分でもどうかなされたのではありませぬか」
「わしの、顔色は、そんなにも悪いか」
「真っ蒼です。恐い、仮面のようです」
「ああ……ああ……」