Japanische Klassiker mit Furigana
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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
Lesen Sie 花と龍 (はなとりゅう) von 火野 葦平 (ひのあしへい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 410.131 Zeichen · 824 Bildschirme
マンは、もう一度、両手で水をすくい、それを口一杯にふくんで、立ちあがった。小走りに、また、小屋の中に入った。
倒れている役人のところに行き、顔を目がけて、プウッ、プウッと、二度に、水をふきかけた。すると、男の顔がびくついて、開いていた口がふさがり、ウウン……と、くぐもった呻き声が、咽喉の奥底から起った。役人が動きだす気配を知って、マンは表に飛びだした。水車のところに置いた笊をとると、一散に、走った。
恐しいのか、悲しいのか、腹だたしいのか、それとも、うれしいのか、わからず、彼女は、ただ、早く家に帰りたかった。谷川に沿った小径を、わき目もふらず急いだ。稔った稲穂のうえを、しだいに強くなった風がわたって行くと、湖のようである。また、キョーンと、するどい狐の一声が、今度はすぐ耳の間近でひびいた。
いくつも坂を越えた。やっと、前方にわが家が見えて来た。ランプの下で、ワラジを編んでいる母の静かな姿が眼に入って、マンは、突然、ぐっと胸がこみあげてきた。大声をあげて泣きだしたい衝動を、やっと、唇をかんでこらえた。涙があふれ出て来て、前方のランプの光がゆらゆらと流れた。