Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

Lesen Sie 蓼喰う虫 (たでくうむし) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 110.066 Zeichen · 216 Bildschirme

Aozora Bunko

さあ、さあ」

と云って先へ立って行く老人のあとから玄関を上った夫婦は、新芽の緑を反射している籐の網代のひいやりとしたのを足袋の底に蹈みながら、家じゅうに焚きしめてあるらしいほのかな草実の匂いを嗅いだ。

「そうそう、お茶よりも先に手拭いだった。つめたいのを一つ絞っておいで」

若葉の繁みで土庇の外が小暗いばかりになっている座敷の、わざとすずしい端近な方へ席を取ってほっと一と息入れている夫婦のけはいから、それとなく何かを見て取ろうとした老人は、汗ばんだ顔に庭の青葉を映している要の様子に気が付いて云った。

「つめたいのより熱いお湯で絞った方がええことおへんか」

「うん、そうだったな。………要さん、まあ羽織でもお取り」

「ええ、ありがと。この辺は昼間から蚊がいますな」

「ええ、ええ、『本所に蚊がなくなれば大晦日』と云うが、ここのは藪ッ蚊なんだからなかなか本所どころじゃあない。蚊やり線香を焚くといいんだが、うちでは除虫菊を炮烙へ入れてくすべることにしているんでね」

要が予想していた通り老人はこのあいだの手紙のようでもなく、いつもに変らない機嫌のよさで、此処へ来るなりふさいでいる美佐子の顔色には頓着なく語るのであった。