Japanische Klassiker mit Furigana
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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
Lesen Sie 五瓣の椿 (ごべんのつばき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.721 Zeichen · 296 Bildschirme
「はいってそこを閉めてくれ」
男はふるえながら、襖を閉めてこっちへ来、娘の側へ坐った。娘は起き直り裾や衿をかいつくろい、髪へ手をやった。顔は蒼ざめてみえるが、態度も声音もおちついてい、却って男のほうがおろおろしていた。
「おれは八丁堀の青木千之助という者だ」と彼は男に云った、「そのほうこの娘を知っているのか」
「はい、その」と男は慌ててかしこまった、「じつは許婚同様の者でございます」
「同様とは、どういうことだ」
「その、ちょっとわけがありまして」男は娘のほうを見、口ごもった。
「構いません」と娘が男に云った、「囲い者だと仰しゃって下さい」
「囲い者だなんて、そんな」
「おれから訊くが」と千之助が云った、「それではそのほうが湯島横町の家の面倒をみているのか」
「まことに失礼ですが」と男はちょっとひらき直った、「私は蔵前の札差の伜で名は清一、親は香屋忠兵衛といいます、これは近いうち私の妻になる倫ですが、いったいどういう御不審でお取調べを受けるのか、それを先に聞かして頂けませんか」
千之助は男を見た。清一と名のるその男は、もう三十一か二になるだろう、背丈の高い、いい顔をしているし、着ている物も高価な品だが、いかにも札差の家の道楽者という感じで、ひらき直ったかたちもどこやらしまりがなかった。