Japanische Klassiker mit Furigana
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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
Lesen Sie 五瓣の椿 (ごべんのつばき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.721 Zeichen · 296 Bildschirme
――逃げられたか。
しまったと思い、彼は手荒く障子をあけた。雨の日の黄昏で、座敷の中はすでに暗く、香をくかおりが噎せるほど強く匂っていた。
「おしの」と云って、彼は咳こんだ、「おしの、いるか」
千之助は障子をいっぱいにあけ放った。
小机の上に香炉が煙をあげてい、火鉢の脇に、娘が俯伏せに倒れていた。千之助は棒立ちになり、上からじっと見おろしていたが、長い経験で、それがもう死躰であるということは一と眼でわかった。
「おそかったな」と彼は呟いた、「待てなかったのか」
彼は頭の中のどこかで、おしのを助けよう、と思っていたことに気づきながら、身を跼めて、死躰をそっと仰向きにした。娘の両手は、胸に突き刺した短刀の柄を握っていた、両足は膝のところを、着物の上から固く扱帯で縛ってあった。――千之助は娘の躯が楽になるように、仰向きにきちんと寝かせてから、踏石のところへ出て手を鳴らした。
女中に行燈の火を入れさせ、八丁堀へ使いをやるように命じた。座敷へはいれなかったので、女中はなにも気づかなかったろう。千之助としては、誰にもおしのの死躰を見せたくない気持だったが、役目の責任として、同心を呼ばないわけにはいかなかったのである。