Japanische Klassiker mit Furigana
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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
Lesen Sie 完本 たぬき汁 (たぬきじる) von 佐藤 垢石 (さとうこうせき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.158 Zeichen · 273 Bildschirme
『夕べの御食奉りし後は、何参らせん品もございません』
と、近侍の公卿に復命した。
『けれど、せっかくの思召さるる観月のお莚に、何も奉らないのは、さぞかしご本意なく思召さるるでありましょう』
と、公卿はさびしく、つぶやいた。そこで内膳司も、いまさらながら禁裡の欠乏を嘆いたが、と言って何ともなる訳には参らず、思案に余った末、まことに恐懼に堪えない次第ではあるけれど、一つ思い当たることがあった。
それは、自分が晩酌の肴にしようと思って、しまって置いた鱧の皮に気がついたのである。この鱧の皮は、既に焼いたものであった。それは、お肴として、場合として、如何かと思ったのだが、これを取り出して大根と共に細かく刻み、鱠のように調理して、お銚子に添え、近侍の公卿まで運びきたった。公卿はこれを上皇に進め参らすと、龍顔麗わしくご盞を重ねられた上、この鱠をご賞美遊ばされた。そして、この鱠は何という魚にて作りしか、さても珍味に思うという意味のお言葉を賜わった。けれど、
(これは、実は内膳司の晩酌の肴を奉りました)
こう、ほんとうのことが申し上げられるものではない。公卿は背に汗を流した。