Japanische Klassiker mit Furigana
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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
Lesen Sie 完本 たぬき汁 (たぬきじる) von 佐藤 垢石 (さとうこうせき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.158 Zeichen · 273 Bildschirme
『お前も一杯やってみるか』と言った父の言葉が頭の何処かを掠めた。そこで、ただ何となく『飲んでみるか』と軽く考えたのである。
『女中さん、酒一本持ってきておくれ』
誰憚るものがいないのだから、私は大胆に注文した。すると、女中はこの子供がまあ呆れたといったような顔して眼を瞠る。
『嘘じゃない、ほんとだよ』
たとえ、少年であっても俺は客だ、という気でいるから、私は人怖じなどしない。
女中は微笑しながら起っていって、やがて酒壜と杯を持ってきた。この壜に正味一合入ることは、いつも徳利の大小について父と母との問答を聞いているから、的確に判断がつく。
『ごゆっくり』
と、言って女中がまた微笑して去ったあとで、私は眼をつむってまず一杯を喉へおとした。眼をつむるというのは、舌に感覚を与えまいとする用心なのだ。つまり酒は随分苦いだろう、という予感があったからだ。ところが苦いどころか甚だおいしい。眼をつむるなんて、近ごろの言葉でいえばひどく認識不足であると自笑した。
それからは眼を開いたまま、グイグイと忽ち一本を平らげた。手を叩いて、も一本。さらに、も一本。都合三本を、手間ひまかけずに飲み干したのである。