Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme

Aozora Bunko

りん……鈴の音だった。……りん、りん、と錆びた古鈴のひびきが、彼の離れのすぐうしろで聞えた。

江の島見物の旅人たちが、なにがしかの賽銭を神楽料として献げるたびに、この社家にいる一人の若い巫女が、白の綸子の小袖に緋の袴をつけて、舞楽殿で湯立舞の一節を舞うのであった。――その鈴が時々ひびいてくる。

気を紛らそうとするように、郁次郎は、机の前を立った。そして、ぶらぶらと、拝殿へつづく橋廊下へかかりながら、見るともなく、庭を見ている……。

光琳が屏風にでも写しそうな、かたちのよい、一株の老梅があった。

「あら、咲きましたこと」

誰か、話しかけたのである。

ぼんやりしていた郁次郎は、うしろに、人が立ったことすら知らなかった。振り顧ってみて、何か、薫り木のような香わしさが、その老梅のものではなく、自分のうしろに立っている巫女の直美であることを知った。

「あ……」

「ホ、ホ、ホ」

直美は笑った。

いつも化粧をしているせいか、表情のある仮面のように美しい。

「……何を驚いたのでございますか」

「べつに」

と、郁次郎も、淋しく笑った。

「ご退屈でございましょう」

「なに、書物に親しんでおりますから」