Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
とも知らずに、虚無僧は、やがて尺八を袋に納めて、しばらく、屋内の空気に耳を澄ましていたが、
「もし……」
と、軽く、爪の先で、そこの戸をたたいてみる。
「…………」
静かである。――丑満の星明り。
屋内からは微かな人の寝息が洩れるばかりだった。すると突然、虚無僧は、天蓋の顔に両手を当てて、さめざめと、泣き出した。
(ふしぎだ、いよいよおかしな奴だ、死罪になる囚人へ曲を手向けている奇特な虚無僧かと思ったが、あの様子では、何か郁次郎に縁の深い人間に違いない)
彼は、まさかその虚無僧が、花世の化身とは夢にも気づかない。――先の視線の隙を狙っては、じりじりと、十手を密めて、這い進んでいた。
虚無僧は、涙をふいて、何かはッと気をとり直したように、四辺を見廻した。そして、窓の雨戸へ懐剣の尖を差し入れた。
すっ、すっ、と短い刃の先に木屑が白く舞った。見ているまに、手を入れて、錠を外すぐらいな隙があいた。
耀蔵は、思わず、あッと口走った。――振り向いた天蓋は、そこに、彼の姿を見て、ほとんど、滅心的な悲しい表情を投げた。
「ああ、もう少しだったのに!」
こう、口惜しげに叫ぶがはやいか、風のように、走り出したのである。