Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
二間――一間――三、四尺――
伸ばした腕の指さきが、魔女の、白い襟もとへ、触れんばかりに、幾たびも近づいては、巧みに、さっと、交わされてしまった。気は、逸っても、もう幾年か、職を捨てて隠退していた塙江漢、老いと若さの相違である、やむを得ない精力のちがいが、駈ければ駈けるほど、必然、出てくる。
(ちぇッ、捕縄があれば)
と、江漢は、歯がみをした。
(なぜ自分は、捕縄を捨てたろう)
とも悔いるのだった。三十年来、肌身を離したことのない捕縄も、公職を退くと同時に、生涯、二度と手にとるまいと誓って、愛縄堂に祠ってある四百余体の悪像と共に、今は、塵の中に古びてある。
「えいッ」
老先生は、突然、小石をひろって、投げつけた。礫は、彼女の鬢にあたった。
ひイッと、声をながして、鬢へ、手をやりながら、彼女の影が、よろめいたと思うと、老先生は、
「あっ、しまった」
と、さけんで、一足跳びに、踵を蹴った。
どぼうん! ……と真っ白な飛沫が、駈け寄った老先生の足もとから顔、胸いたへ、びッしょりとかかった。
彼女のすがたは、瞬間に、消えてしまった。暗い水面には、いちめんに、白い泡つぶが、わき立っていた。