Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme

Aozora Bunko

「うーむ……」

と、老先生は、ひらいた鼻腔から、最後のうめきをもらして、だらりと、敵の肩へ、仰向けに、首を寝かした。

だが、一心はおそろしい。よほど、無念だったに、ちがいない。

老先生の脈は止まったが、眼は、くわっと開いて、敵の顔へ、すわっていた。

ああ、彼は、生と死との、瞬間に、その相手の顔を、眸に映したろうか?

それこそ、悪人の首領だった。去年、十五夜の晩以来、黒幕にひそんで、巧みに、部下をあやつるほかは、きょうまで、数えるほどしか、事件の表面に、すがたを現わさない、覆面の男だ。

だが――老先生の眸はもう死魚のようにどんよりとしていた。瞼の皮が、死のせつなの一念で、みひらいているだけのものであった。

黒い覆面は、にやりと、笑った。

そして、とどめの拇指を、蝮の首のように、ふかく、頸動脈へ突っ込もうとした時に、老先生のからだは、がっくりと、泥人形が折れたように、彼の手からすべり抜けた。

「どなたですえ?」

――とたんに、眼の前の、釣舟屋の戸があいた。

白む朝窓

夜魔! 夜魔!

それは、蝙蝠に似ている。

するどい眼をもって、覆面をして、黒衣に身をつつんで、そして、二本の塗鞘を長やかに、うしろへ、刎ね上げて飛ぶ。