Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
そのまに、新七は、舟を見つけて、先に乗る。――耀蔵のからだも、まるい物体のように縛りつけられて、その中に、運びこまれた。
「何か、物を落してゆくなよ。血は、こぼれていやしめえな。……おう、いけねえ、こんな所に、十手が落ちていやがる。こんな物も、後のあしにならねえように、気をくばって、一緒に、沈めてしまえよ」
「じゃ、お首頭、そのうちに」
「む」
と、覆面は、うなずきながら、出てゆく舟を見送っていたが、また、岸を追いかけて、
「忘れていた。――おうい」
「なんですか」
河のなかで、新七が答えた。
覆面は、橋を渡って、その中ほどの欄干から、下をのぞいて、舟が、潜りぬけて来るところへ、低声で言った――
「四、五町先へ行ったら、櫓をゆるめて、玉枝を、拾い上げてやってくれ。あいつ、蟹みてえに、石垣の穴でも見つけて、寒がっているにちげえねえ」
――重くるしい寂寞。夜靄の丑満。
櫓韻は、ぎい、ぎい、とやがて遠く河下へ消えて行った。
「や。もう七刻だ」
覆面は、ふと、耳をすました。
鐘の音が消えた空に、五位鷺が、つばさを搏った。――深夜の感じは、刻々、明け方ぢかい空気に変ってくる。