Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
よし、よし。そのまま、射返してやるから、矢を、これへ持て」
と、築山のうえに登って、そこから、手に取るように見える数寄屋川の向うの河岸へ手をかざした。
「はてな? ……それらしい人間も見あたらぬが、采女、そちの眼では、どうじゃ」
「わかりました。……あれにおります」
「どこに」
「川向うの民家の屋根に、ひとりの老人が立って、じっと、こっちを見ております」
「見えん。どこに?」
「もすこし、私の方に寄ってごらんなされませ。あの河岸添いの釣舟屋の屋根に、ひとりの老人が立っておるではございませぬか」
「あっ。これは妙だ!」
と、左近将監は、采女の指さきへ視線を向けるとすぐに、びっくりして、こうさけんだ。
「あれは、江戸の大捕手といわれた名与力、今では、鶉坂に隠退したはずの塙江漢にちがいない」
「や、や、殿。ごらんなさい。お屋敷の方へ向いて、拝んでおります」
「ふしぎなこともあるものだ。よもや、江漢老人、気が狂ったわけでもあるまいに、当屋敷へ矢文を射込んで、拝んでいるとは心得ぬことだ。……オオ何はともあれ」
と、左近将監が、にわかにそれを開いて一読してみると、まさしく、塙江漢の手蹟である。