Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
と、新七はあわてて、首を振りながら、
「こんな所で、人間の血脂をながしたら、すぐにあしがついてしまう。そのまま、錘りをかけて、沖の深くへ抛り込んでしまうのがいちばんだ」
「なるほどネ」
と、玉枝は、笹いろに光る紅唇のあいだから、細かい歯を見せて、遠心的に、
「やっぱり、あの人は、要心ぶかい……」
と、つぶやいた。
「もう、ここらでよかろうじゃねエか」
ぐっしょりと、汗をかいて、新七は、疲れた腕から櫓を離した。左に遠く見えるのは、江戸川尻を抱いた浦安、行徳あたりの浜辺である。
「さ、おまえも、手伝わなくっちゃいけないよ」
玉枝は、唖男の膝をつッついた。
「…………」
唖は、眼をさました猛獣のように、筵の上に眼を落すと、もっそりと、身を起して、無造作に、筵をめくッた。
足も、手も、胴も、ギリギリ巻きに縛られた一箇の人間が、その下に、仰向けになって伸びていた。いうまでもなく、それは、まだ夜の明けぬ暁闇の数寄屋河岸で、悪人たちが首領とよぶ覆面の侍と、ここにいる新七や唖男などのために、無残な敗北を遂げてしまった江漢老先生の片腕の同心加山耀蔵であった。
「ひ、ひ……」
と、唖男は、妙な声を洩らして、耀蔵の顔を指さした。