Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
彼は、驚喜してとびついたが、はっと、手を竦めた。
「止そう! 鉄砲のかわりに、俺を毒殺する計略だ」
――岩壁の暦、二十八。
今日はもう、また、深い霧だ。
昨日の握り飯がないと思うと、また、新しい握り飯が置いてある。見ると、それを乗せた竹の皮に、一枚の紙片が挟んである。何が書いてあるのかと思うと、
後三十一日也。
と、謎みたいな六文字が記してあるだけだった。
「はてな? ……後三十一日也? 何のことだろう」
と、耀蔵は首をひねった。
「後三十一日也……後……あっそうだ。今日は日をかぞえれば七月の十五日、老先生の百日の期限までには、ちょうど後三十一日だ。不思議、不思議、誰がどうして、そんなことまで知っているのだろう。そしてこの握飯をおれにすすめるのだろう」
彼は、怖々と、十粒ばかりの飯を、奥歯で糊のように噛んだ。べつに、毒の作用も起らなかった。しかし久しい間、空っぽの胃ぶくろに、一箇の握り飯をふいに入れることは危険だった。時折、幾つぶ宛かを根気よく噛んでは、そっと喉へ通した。
――岩壁の暦、二十九。
朝、昼、何事もなかった。
夕方である。不意に訪れた跫音だった。