Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
東儀与力は音もなく近づくが早いか、
「女。待てッ!」
と、するどい一喝に相手の耳を衝って、跳びついた両腕を、うしろから胸へ廻して締めつけた。
びっくりしたに違いない、女は、顔いろを失って、じっと、肩越しに黒い眸をながしたが、気を沈めるように、
「あっ……貴方は、東儀様ではございませぬか。何をなされます、こんな場所で」
「えッ……拙者を東儀と? やや、貴女は」
「ごぞんじの筈ではございませぬか、富武五百之進の娘、花世でござります。……何かお人ちがいでも」
「こ、これは、飛んでもない失礼を仕りました。……ウウム、やはり貴女は花世殿だ、花世殿にちがいない」
と、恐縮と疑惑と、迷いと否定と、交な気もちに乱れて、まるで心の滅走した人間のように、茫然と手を離した。
花世の寒いほど麗輝な顔ばせは、ようやく、驚きからホホ笑ましげに和んで――
「東儀様、ご得心が参りましたか」
「は、は、よく相分りました、まったくの人違いで」
「他人のそら似ということもままございますから……」
「面目ない失礼でござった。どうか、お父上にはご内聞に」
「はい、私も女子のくせに、夜の外出は父に知れれば叱られますから」