Japanische Klassiker mit Furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 聞書抄 (ききがきしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.821 Zeichen · 210 Bildschirme
取り縋って泣き叫び、今母上にお別れ申して此の先どうなる身であろう、是非御一緒に死出のお供をさせて下されとせがんだけれども、母は乳人を呼んで自分を引き離してしまったので、泣く/\城を立ち去らねばならなかったと。尼は此の「母」なる人が父三成の正室であったか側室であったかを洩らしていない、又自分に兄や弟があったかどうかも語っていないが、想像するに彼女は庶腹の子であって、あまり問題にもされていなかったればこそ、却って無事に城を出られたのであろうか。彼女は乳母に手を執られながらも母の傍を離れまいと一生懸命に「いや/\」をして身を悶えた。だがそのうちに渦巻く火焔が母との間を隔てゝしまい、一方では乳母が早く/\と急き立てるので、それから先は悲しいよりも火の粉の熱さを避ける方に心を奪われ、よう/\我に復った時は、戦の騒ぎが遥か遠くに聞えるような静かな裏山の森の中に潜んでいた。
そこまで来ればもはや炎に焼かれる恐れも、敵の手に捕われる気づかいもないと分ってみると、再び母のことが思い出されて、どう考えても乳母に連れ出されてしまったことが悔まれてならなかった。そうして、城の方の空に上っているおびたゞしい煙を見ては又新しい涙を誘われて、もう母上はあの煙の中に消えておしまいになったのであるとあきらめながらも、あゝ、どうぞあそこへ、