Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 聞書抄 (ききがきしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.821 Zeichen · 210 Bildschirme
お母さまのお傍へ、あの煙の中へとだゝを捏ねたが、乳母はそう云う彼女の声が森の外へ洩れないようにと眼顔で知らせて、とき/″\「しっ/\」と小声で叱ったり、
「お姫さま」
と、たしなめながら彼女の口へ手をあてたりした。乳母は彼女がだん/\落ち着きを取り返して泣き止んで来る様子を見定めて、都へ上れば身を隠すのに都合のよい知る辺がないでもないから、お父さまの御安否が分るまでは、どんなにしてゞも生きながらえている方がよいと云うのであった。けれども彼女、十歳になるかならずの娘は、乳母がたび/\繰り返す「お父さま」と云う言葉をどう云う風に聞いたであろうか。父と云う人は嘗ては五奉行の一人として天下に並びない権勢を謳われ、今度も江戸の内府どのを相手に上方勢を寄せ集めて大きな軍を起したほどの偉いお方であり、母や自分を立派な城に住まわせて大勢の腰元を冊かせてくれ、大名のお部屋様やお姫様として幸福な月日を送らせて下すった有難いお人には違いなかったが、親としての親しみを感ずるのには、彼女から見て餘りにその父が高過ぎもし、隔たり過ぎてもいなかったであろうか。彼女が物心ついてからは、たま/\城に帰っている時でも上方や江戸の形勢を案じて侍たちと密議するような日が多く、ついぞゆっくり可愛がっても貰えなかった忙しそうな父親ではなかったか。