Japanische Klassiker mit Furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 聞書抄 (ききがきしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.821 Zeichen · 210 Bildschirme
と自分のことを思い浮かべてくれたであろうとは、夢にも考えられないのであった。城には大勢の兄や姉や弟妹たちがいたことではあり、ろく/\口をきいてくれる折とてもなかったのであるから、特に自分と云うものが覚えられていた筈はない。死ぬ時の父の頭の中は、家族に対する愛着などゝは凡そかけ離れた、銷磨しきれぬ覇気と不満とで煮え返っていたであろう。さればこそ娑婆の功名に未練を残して、弥陀の悲願にすがることを潔しとしなかったのであろうから、自分のようなものが回向したところで、それを喜んでくれる父とは思いようがなかった。幼い娘は乳母に手を曳かれながら、そんな風な考えを漠然と胸に秘めつゝ歩いた。空はよく晴れて、地上の夕闇が濃くなるに従い三日の月が光を増していたが、半月前に近江路を落ちて来たときに比べると、河原から吹いて来る風がひとしお身に沁み渡るのであった。
挿絵
四つの首がならんでいる前へ来ると、黙って手を曳いていた乳母が笠の庇の下からあたりを見廻して、人通りのとだえた隙を測りながら合図をした。そうしてしずかに笠の緒を解いて、袂から数珠を出した。娘は乳母のするようを学んで、しばらく地にうずくまって念佛を云ってから、あらためて首を見上げたのであったが、恐らく父の顔をこんなにしげ/\と、まともに視つめることが出来たのは、この時が最初