Japanische Klassiker mit Furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 聞書抄 (ききがきしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.821 Zeichen · 210 Bildschirme
だったであろう。父は今までに見たことのない一種不思議な表情をしていた。鼻の片側に陰が出来て、眼瞼を閉じている両方の眼のまわりが穴のように暗くなっているのは、夕方の光線の作用もあろうけれども、関ヶ原で敗れてから一昨日刑罰に処せられるまで、半月の間の心身の苦労が、父を幾らか窶れさせたのではないであろうか。飢えと、寒さと、腹下しと、六日間の野宿のあとで、縛られ、小突かれ、車で方々を引っ張り廻されて、誹謗に抗し屈辱に堪え、或は瞋り、或は悶え、或は悔みなどしたとすれば、さしもの父も痩せずにはいなかったであろう。だが、それでいて、噂を聞いて想像していたほど、無念の形相を浮かべてはいなかった。死人の首と云うものから来る或る陰惨さは別として、もはや人を威壓するようなあの生前の気魄が抜けて、浮世の闘争を超越した、すが/\しい顔になっていた。よう/\肩の重荷が下りた、これでほっとしたと、今になって父はそう云っているように見える。生きている時分にこんな優しい顔つきをしていてくれたら、自分も此の父をもっと慕ったであろうものを、父のような強情な人をこんな風に変えてしまうのが「死」