Japanische Klassiker mit Furigana
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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
Lesen Sie 花と龍 (はなとりゅう) von 火野 葦平 (ひのあしへい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 410.131 Zeichen · 824 Bildschirme
静まりかえった深夜の街を、襟をかきあわせて、急いだ。
十五夜近い月光が明かるいので、そんなにさびしいとも思わない。故郷の山奥はもっとさびしかった。しかし、音も人影もない月夜の静寂さは、どこかに、故郷の谷を思い出させるものがあって、マンは、唐突に、郷愁を感じた。どこかで鳴いた犬の声が、狐の声のように、耳にひびいた。
(みんな、どうしているだろうか?)
父の顔、母の顔、弟の顔、それから、大川時次郎の顔が浮かんだ。時やんは、まだ、馬に乗って、郵便配達をしているのか知らん?――マンの胸の奥の奥で、ちくちく疼くものがあった。
永田杢次の家まで、一町半ばかりだった。
マンは、裏口にまわり、戸をたたいた。
ヨネが、寝ぼけ眼をこすりながら、台所の硝子戸のところへ出て来た。
「おマンさんかえ?」
「はい」
「今ごろ、どうしたんじゃね?」
ヨネは、戸を開いた。
「親方さんは?」
「まあだ、帰らん」
「お姐さん、すみませんけど、お金を十円、すぐ貸して下さい」
「今ごろ、だしぬけに、いったい……?」
「わけは、明日、話します。急ぎます。お願いします」
「そうかな?」
ヨネは不審そうな顔をしたが、うなずいて、ひっこんだ。