Japanische Klassiker mit Furigana
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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 蓼喰う虫 (たでくうむし) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 110.066 Zeichen · 216 Bildschirme
研き立ての光沢のいい爪が、指頭と指頭のカチ合う毎に尖った先をキキと甲斐絹のように鳴らした。長い間の習慣で夫の気持を鋭く反射する彼女は、自分も同じ感傷に惹き込まれるのを恐れるかのように殊更隙間なく身を動かして、妻たるもののなすべき仕事をさっさと手際よく、事務的に運んでいるのであるが、それだけに要は、彼女と視線を合わせることなく余所ながら名残りを惜しむ心で偸み視ることが出来るのであった。立っている彼には襟足の奥の背すじが見えた。肌襦袢の蔭に包まれている豊かな肩のふくらみが見えた。畳の上を膝でずっている裾さばきのの下から、東京好みの、木型のような堅い白足袋をぴちりと篏めた足頸が一寸ばかり見えた。そう云う風にちらと眼に触れる肉体のところどころは、三十に近い歳のわりには若くもあり水々しくもあり、これが他人の妻であったら彼とても美しいと感ずるであろう。今でも彼はこの肉体を嘗て夜な夜なそうしたように抱きしめてやりたい親切はある。ただ悲しいのは、彼に取ってはそれが殆ど結婚の最初から性慾的に何等の魅力もないことだった。そうして今の水々しさも若々しさも、実は彼女に数年の間後家と同じ生活をさせた必然の結果であることを思うと、哀れと云うよりは不思議な寒気を覚えるのであった。