Clásicos japoneses con furigana
ja-reading.com
Lee clásicos japoneses en línea con furigana. Filtra por nivel JLPT, toca una palabra para ver el significado y traduce una frase.
しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
Lee 真珠夫人 (しんじゅふじん) de 菊池 寛 (きくちかん) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 289.296 caracteres · 578 pantallas
彼は、それを破ろうとするらしかった。が、彼の手は、たゞノートの表紙を滑べり廻る丈で、一枚の紙さえ破れなかった。
「捨てゝ――捨てゝ下さい! 海へ、海へ。」
彼は、懸命に苦しげな声を、振りしぼった。そして、哀願的な眸で、じいっと、信一郎を見詰めた。
信一郎は、大きく肯いた。
「承知しました。何か、外に用がありませんか。」
信一郎は、大声で、而も可なりの感激を以て、青年の耳許で叫んだ。本当は、何か遺言はありませんかと、云いたい所であった。が、そう云い出すことは、此のうら若い負傷者に取って、余りに気の毒に思われた。が、そう云ってもよいほど青年の呼吸は、迫っていた。
信一郎の言葉が、青年に通じたのだろう。彼は、それに応ずるように、右の手首を、高く差し上げようとするらしかった。信一郎は、不思議に思いながら、差し上げようとする右の手首に手を触れて見た。其処に、冷めたく堅い何かを感じたのである。夕暮の光に透して見ると、青年は腕時計をはめているのであった。
「時計ですか。此時計を何うするのです。」
烈しい苦痛に、歪んでいる青年の面に、又別な苦悶が現われていた。それは肉体的な苦悶とは、又別な――肉体の苦痛にも劣らないほどの――心の、魂の苦痛であるらしかった。