Classiques japonais avec furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lisez 剣難女難 (けんなんじょなん) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 243 807 caractères · 482 écrans
お延は弾んだ声で云った。
「や、では暫時来て下さるか」
「おやすいこと」
「それは忝けない。どこぞ静かな所でさえあれば……」
と侍は人中を縫って、雉子町の横を抜け、紅梅河岸の太田媛神社の中へ入った。
寂寞とした、拝殿の階段に腰かけたが、覆面の侍は、いつまでたっても、黙然として、唯じっとお延を睨みつけているような態。
「急ぎの用を控えているんですから、早く、その……新九郎さんと深い訳のある女とやらの仔細を聞かせて下さいな」
お延は、少し気味悪くもあり、また気も急いているので、焦れッたそうに口を切った。
「その新九郎に深い訳のある女というのは……」
侍は重々しく言葉を濁す。
「ええ、一体その女というのは?」
「その女はな……」
「どこにいる――どんな女でございますかえ?」
「実は、かく申す某だ」
「な、な、何ですッて?」
「お延! ようもようもそちは、妾の男を取りやッたな」
「あ――あれッ」
くわッと睨まれた眼のおそろしさに、思わず声を揚げて、バタバタと逃げ出したお延――その後ろへ、豹の如く躍りかかッた覆面の侍は、姿の優しさに似ず、おそろしい手技で、お延を捻じ伏せ、両手を縛めあげた上、ギリギリと顔へ猿轡を巻いて、境内の大樹の幹へ縛りつけてしまった。