Classiques japonais avec furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lisez 剣難女難 (けんなんじょなん) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 243 807 caractères · 482 écrans
五
老女の水瀬が退がってゆくのを見届けてから、御方は、そこに残されてある、銀紙包みの秘薬をとりあげ、ちょっと香を改めてから、蝶貝象嵌の手筥の底へ、心の笑みと一緒にひそめてしまわれた。
五
剣難。
悪魔が作ったようなこの二ツの文字。
春日新九郎は、今しみじみと、初めてこの二字に宿命されている自分の生い立ちを考え、共に、間違いなく、その宿命へ入ってゆく不可思議さに、愕きとおののきとを禁じ得ない。
こう考えている新九郎の身は、今何処にあるかと云えば、菖蒲の寮の御方の部屋から、わずか、四間の渡り廊下を隔てた、利休好みの離室に静坐しているのだ。
嵐の夜に、この寮の裏で御方に救われてから、すでに十日余りとなる。老女や侍女から、この屋敷の輪廓を、およそ聞き知った新九郎は、一日も早く帰りたいと思ったが、容態にかこつけて、御方の許しが容易に出なかった。
ところへ、今朝見舞ってきた蘚伯があとは養生次第と云ったので、それを機に、吾から床を払ってしまった。そして久し振りに、和やかな白帆の行く川尻を眺めていた。と、眼はそれにありながら、新九郎の頭脳には、いつか剣難の二字をはっきりえがいて、種々、ことごとに、思い当りながら、なお十か九ツごろの、おさない昔にまで、その追憶が走って行った。