Classiques japonais avec furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lisez 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) de 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 113 247 caractères · 229 écrans
思いがけないことには、彼女の双眼には大きな涙が浮かんでいた。それは水晶のように美しい涙であった。
私は、完全に理性を失って、自分がそういう資格のない人間で、しかもその上に許すべからざる嘘つきであることも忘れてしまって、思わず、手をのばして、彼女の手をぎゅっと握りしめようとした。
「いけません、いけません。さわっちゃいけません。妾の身体はもはやけがれているのです。何もきかないで、……どうぞ許して下さい……」
彼女は私の手をふり払うと同時に、もうすっかり自制力を失ってしまって、四年前の浅田雪子にかえり、涙がぱらぱらと落つるがままだった。
二人は沈黙してしまった。私は自分の醜態をはじてしょげ返った。雪子は椅子の腕に両手をのせて、その上へ顔をふせていた。
鳴呼、私たち二人は何という相違だろう。それは天使と悪魔とが一つの室の中に向かいあっているようなものだ。彼女は已むを得ない事情のために私を裏切ったことを、千万言にもまさる雄弁な美しい涙によって私に告白して、許しを乞うているのだ。しかるに私はどうだ。勝手に彼女を裏切って、それを卑怯にも隠しているのだ。そして、おまけにたった今図々しくも彼女の手を握ろうとさえしたのだ! 私は、どんなことがあっても、ここで彼女の脚下にひざまずいて、すっかり懺悔すべきだったのだ。