Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

Lisez 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 130 271 caractères · 263 écrans

Aozora Bunko

(二十五)

誰云うとなく此声が駅中に拡がると、まだ宵ながら眠れるような町の人々は、不意に山海嘯が出たよりも驚かされた。日頃出入の者は云うに及ばず、屈竟の若者共は思い思いの武器を把って駈集まった。

塚田巡査は町の者共を従え、市郎は我家の職人や下男を率いて、七兵衛老翁に案内させ、前後二手に分れて現場へ駈向った。夜の平和は破られて、幾十の人と火とが、町尽頭の方へ乱れて走った。

(二十五)

午後から陰った冬の空は遂に雨を齎して、闇を走る人々の上に冷い糸の雫を落した。が、そんなことに頓着している場合でない。松明の火を消すほどの強雨でも無いのを幸いに、何れも町を駈け抜けて、隣村の境まで来て見ると、暗い森、暗い川、暗い野路、見渡す限り唯真黒な闇に鎖されて、天地寂寞、半時間前に怖るべき椿事がここに起ったとは、殆ど想像の付かぬ位であった。

「老翁、この辺かい。」と、市郎は立止まって顧ると、七兵衛は水涕を啜りながら進み出た。

「はあ、丁度ここらでがすよ。あれ、あの樅の木の蔭からが出て来たので……。それから何でも大旦那は彼地の方へ逃げたように思うのでがすが……。」

人々は松明を振照して、七兵衛の指さす方を仔細に検査したが、別に手懸りとなるべき足跡もなく、遺留品も見出し得なかった。