Classici giapponesi con furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Leggi 伸子 (のぶこ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 232.543 caratteri · 466 schermate
打とうが蹴ろうが、彼はもう彼女の一部であった。自分に痛みと苦しみとを感ずることなしに、伸子は、彼を小づくこと一つ、できはしないのであった。
ややしばらく経って、伸子はふと和一郎の声をきいたように思った。とうに眠ったと思っていたのに。――伸子は、そっと、
「起きてたの」
と声をかけて見た。和一郎は返事せず、ムニャムニャわけのわからない言葉を呟いた。寝言だ。伸子は暗闇の中で、自分に向って笑った。彼は眠りながら、舌で乳を吸うような音を立てる癖があった。和んだ心持で耳を傾けていると、和一郎は急にはっきり、
「あ――」
と、長く引っ張って溜息をついた。伸子は反射的に片肱つき、起き上って彼の顔をのぞき込んだ。夢中にしては溜息に実感がこもりすぎていた。眠ることは、それでも眠っていた。彼はもう一度ああと短い吐息をつくと、今度は低い迫った調子で、
「ああ、僕苦しいなあ――僕苦しいなあ」
そう云いながら、彼は胸の上に載せている両手の指先を、細かく、扇ぐように動かした。計らず、彼の若い霊の裂け目を見たように感じ、伸子は愛と痛みとを感じた。彼女はそっと、目を醒さないように片方ずつ、胸からおろしてやった。