Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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のぶこ

伸子

宮本 百合子

Leggi 伸子 (のぶこ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 232.543 caratteri · 466 schermate

Aozora Bunko

五

一

もっと本能的だ。何か本能が、不安を絶叫している。若し夫として佃を敬愛していても、このような暗澹とした恐怖を覚えるであろうか。佃を夫とする刹那、自分の裡にある女性が、彼を父としては承認できない者だと見抜き、拒絶したのかもしれない。そして、あのような警戒を敷いたのではあるまいか。その人の子を持つことは厭だ。けれども夫にはする。……

複雑な感情から、伸子はその夜二人きりになった時、夫にそっと訊いた。

「ね、あなた子供欲しくおありなさらない?」

佃は指を櫛のようにして頭を掻いてはスーと毛を梳き、抜けた毛を眺めながら大きな声で答えた。

「子供なんぞうるさくて仕様がありません」

そして、

「大分抜けるな」

両手で頭を掻き、ふけを自分のあぐらの上へ落した。

五

一

上野には博覧会が開催され、英国皇儲が来遊されるという、ことの多い三月下旬であった。

うらうらと体も心も包むような光線が、縁側一杯に部屋の中まで射し込んでいた。

じき七十になる佃の老父は、

「同じ日本国中でも違うもんじゃのう。……私があっちを立つ宵は吹雪じゃったに――東京は、はやすっかり春じゃ」

眩ゆそうにその日ざしを眺めつつ云った。