Classici giapponesi con furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Leggi 伸子 (のぶこ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 232.543 caratteri · 466 schermate
八
「どうぞ御母堂にもよろしく」
と云う挨拶に、丁寧に頭を下げると、伸子は、急に悲しくて堪らなくなって来た。先生の好意も、自分のよい生活に入りたい熱望も、自分から出たずるずるべったりで、取りかえしつかなく滅茶にしてしまった気がした。伸子は、この問題では、もう二度と先生を煩わせなくなったのを感じた。
八
七月下旬になって、佃から、帰京する通知があった。この夏は、伸子が動坂にいたので、妻や子供達の留守の毎晩を、佐々は、比較的無聊を感じずに過してきた。彼は二十六日に帰るという佃のハガキを見ると、云った。
「……さて、それでは私は十日ばかりKへ行って来ようかな。お前も、すぐ赤坂へ帰らなけりゃあなるまい」
伸子は、父の足許で、低い足台に腰かけ、団扇で蚊遣の煙を、あっちに煽いだりこっちへ靡かせたりしながら、ぼんやり答えた。
「そうね……帰らなけりゃあいけないかしら」
「まだ病院へは、毎日行かなけりゃあならんのかい」
「その方はもう大分いいの、大抵なおりかけ」
「その方はいい、か。じゃあ、他にどっか悪いところがありますか? 貧乏病なら、私が癒してやろうか」
「違うわ」
父娘は声を揃えて笑った。