Classici giapponesi con furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Leggi 伸子 (のぶこ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 232.543 caratteri · 466 schermate
ああ、彼は苦しいのだ、苦しいのだ。しかし、伸子は夫と自分とを刻む苦痛に酔ったようになって、口許に凍った微笑を漂わせながら、さも好いことでも告げるように、一言一言はっきり、
「私も憎らしくって憎らしくって堪らないのよ、あなたが……食われているような心持」
と囁いた。むせ返るように、佃に対する憎悪と自己嫌悪がこみあげて来た。伸子は目の前が暗くなるような心持で部屋を去った。
七日か八日にKに出発する予定であった。佃は例の如く毎日学校へ出てゆき、夕刻かえると、見ぬようにして必ずそれとなく部屋の様子をうかがった。伸子が旅行の支度を今日はしたか、どんなにしたか、と思って、彼は帰って来るのであろう。だんだん日は近づくのに、何一つせぬ彼女を待切れなくなった彼は、ある日、
「本当に行くんなら支度をしたらいいでしょう」
と、気を引くように云った。佃がさりげなく、しかし荷物はどんなかと思いながら我家に帰る気持を感じるだけで、伸子は既にいい加減参っているのであった。彼女には、仰々しく支度するだけの元気がなかった。伸子は憤ったように、
「騒ぐほどのものはいらないのよ、私のことだから」