Classici giapponesi con furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Leggi 伸子 (のぶこ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 232.543 caratteri · 466 schermate
古びた家の柱などが急に目を覚し、出て行こうとする自分を、愕いて見守っているようにさえ感じる。伸子は今を境に自分がここで過した幼年、少女時代の思い出のすべてが、家と倶に後に遺るのを感じた。自分は独り去る。しかし思い出はいつまでも、当時の新鮮さ、多様さで、この家に生きつづけ住みつづけるであろう。左様なら! 不思議な、明るい、暗い子供時代の生活よ、すべて左様なら。
その家は西向きで、崖のとっぽさきに立っていた。午後になると、西日が小箱の口のように、たった一方に開いた縁側からさしこんで来た。力一杯に、西日は部屋の壁際まで照りつけるのだが、それだけ風もよく通ると見え、伸子は大して暑くも感じなかった。こんな小っぽけな家、こんな西日、伸子は珍しい心持で、暑くないキラキラした夏の斜光を浴びて坐っていた。大体、その年は、貸家払底が極度に達していた。彼らは、貧しいポケットから払える最高を払って、やっとその不健康な住居を手に入れたのであった。
引越しのごたごたも鎮まり、佃は毎朝、大学へか、さもなければ、その頃就職した私立大学へ出かけた。八時頃。それから夕方四時半か五時まで、伸子はたった一人で暮すのであった。