Classici giapponesi con furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Leggi 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 162.213 caratteri · 325 schermate
「ええ、どうして逃げるんだ。――人違いじゃない、おれは、郁次郎だ。おれを、救いに来てくれたのではないのか」
彼は、冷たい床の上へ、仰向けに倒れて、輾転ともがき廻った。――保土ヶ谷の宿で聞えた尺八の鈴慕の譜が耳のなかに甦ってくる。
ああ、それもこれも、気のせいかも知れない。会いたい会いたいと思う一念が幻を描くのかも知れない。
もう、有明けの燈芯皿ほども、精気のない彼の肉体は、すぐに、綿のようにつかれてしまった。なんの気力さえないように、ぐったりと、動かなくなった。
ただ、涙だけが、その青い頬を止めどなく流れていた。
がちゃりと、錠を外す音がした。
同時に、黄いろい提灯の明りが、牢格子の間からさして、
「老先生、こちらでございます」
と、先に、案内をして来た羅門塔十郎の声がした。奉行の主計頭、東儀与力の影も、そこに映した。
「おう」
老先生は、開かれた牢内へ、よろぼいながら駈けこんで、
「郁次郎! 郁次郎!」
と、呼び立てた。
「――郁次郎はどこにおる」
「えっ」
むっくりと、起き上がった我が子! 我が子の影。
「おう!」
と、老先生は、とびつくように近づいて、ひしと彼の腕を、握りしめた。