Classici giapponesi con furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Leggi 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 162.213 caratteri · 325 schermate
「かわいそうに……」
彼は、反りの橋の欄干に、頬づえをのせて、つぶやいた。そこから、奉行所の建物や森が、黒く見えた。
「郁次郎の命も、あと、たった一刻だ。ここから、お念仏でも、唱えてやろうか」
だが、彼の顔に現されたのは、哀傷の表情ではなく、深悪な苦笑だった。
「どれ、俺も、明けねえうちに……」
すたすたと、彼は、歩き出した。と――橋のたもと。
鷺のように、ひとりの、うす鼠色の宗服を着た虚無僧が、柳の下に佇んでいた。じいっと、水のながれを見つめていた。
ぎくとしたように、覆面は、足をとめた。
さっと、迅い歩足が、その後ろをかすめたので、虚無僧は、くるりと、天蓋をふり向けて、
「おや?」
と、見送った。
「気のせいかしら? ……」
つぶやきながら、歩き出して、そしてまた、
「よく似ていらっしゃる。だが、奉行所の獄中においで遊ばす郁次郎様が、外をあるいているはずはない」
と、自分の迷いへ、打ち消すように、言った。
虚無僧は、花世であった。
彼女の足は、いつとはなく、奉行所の方へ、人なき夜をさえ忍びやかに、運ばれて行った。恋人のいる獄舎の塀の外を、夢遊病者のように、めぐって歩いた。