Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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じけいろく

自警録

新渡戸 稲造

Leggi 自警録 (じけいろく) di 新渡戸 稲造 (にとべいなぞう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 168.224 caratteri · 328 schermate

Aozora Bunko

見る人毎に有難からぬ人はない

見る人毎に有難からぬ人はない

十一時の鐘が鳴ると同時に彼も教室を出て、下駄をはいて友人と笑いながら話をしているのを僕は認めた。これなら大丈夫だ、この様子で家に帰ったなら、母の安心はいかばかりであろうと思いつつ、彼の姿の門を出ずるを見送った。彼は友人と肩をたたいて談笑しつつ去ったが、おそらく彼の脳髄はただ試験の答案をもってのみ満たされて、母の苦心に考えを向ける余地はなかったろう。しかるに奚ぞ知らん、彼が無難に何時間の試験を経、その翌日もまたその翌日も無難に経たことは、彼の学力のみによると思ったなら、大いに見当がちがっておりはしまいか。

彼の眠られぬ時はともに起き、彼の眠っている際もなお眼ざまし、彼の起きぬ間にとく起きて、彼の準備を助け、彼の眼や耳にさらに触るることなく、彼の身辺を擁護する母の情愛があって、始めて無難な試験を経たものと、迷信かは知らんが僕は信ずる。

右はただ僕の実見にふれた一例に過ぎぬ。かくのごとき恩愛は人の眼を忍んで、世にあまたあると信ずる。いな、あまたどころではない、かくのごとき情愛は空中に満ちていると思う。ただこの満ちている情愛に触れていながら、これに感ずるに鈍きわれわれの心情こそ、遺憾至極である。