후리가나로 읽는 일본 고전
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
岸田 国士의 火の扉(ひのとびら)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 129,467자 · 257화면
五
天竜の河づらにもやがながれ、微風に麦はそよぎ、丘の上の町のひがちらほらとつきはじめた。
ハノイの植物園のことをふと思い出す。日の暮れかゝる時分になると、重くよどんだ空気のなかで、むせかえるような香りが一面にたゞよつてくる、あの瞬間だが、しかし、市ノ瀬牧人は、なぜ、ものみな淡くさわやかなゆうべに、そんな印象を呼びさましたか?
五
むせるような亜熱帯の花の香りは、あからさまに言えば、彼の胸にきざしている井出夫人へのやみがたい恋情のひとつのかたちなのであるが、彼自身は、そんなことは意識してはいない。たゞ、漫然と、その香りにさそわれるように、井出夫人のすまいのそばへさしかゝる。大きな竹やぶを背負い、白壁がぐるつと坪庭を囲み、旧家らしい構えの母屋が奥深いものをつゝんでいるこの一郭を、彼は、それが池内なにがしという大地主の屋敷であることなどは忘れてしまい、井出康子という端麗な未亡人をそこのあるじにみたてゝ、なにか物語めいた空想をしてみる。それは、またとなく神秘的な、心のおどる遊戯であつた。
彼、市ノ瀬牧人は、この井出夫人の「やかた」の前を、しばらく、行きつもどりつする。