후리가나로 읽는 일본 고전
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
山本 周五郎의 樅ノ木は残った(もみノきはのこった)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 167,285자 · 330화면
甲斐はまわりの景色を、静かな眼で、飽かず眺めまわした。かの丘、かの松林、その断崖。広い河原の、白く乾いた岩や砂利、そして、音立てて流れる水。それらがみな、遠い過去からよみがえって来て、彼に呼びかけ、彼に話しかけるように思えた。
甲斐は釣ることを忘れたように、流木に腰をかけ、手に釣竿を持ったまま、いつまでもじっと動かなかった。
対岸の丘の松林に明るく陽がさしはじめたとき、少年の辻村又之助が、茶と菓子を運んで来た。甲斐は茶を喫しただけで、すぐに又之助を戻らせた。
又之助が去ってほどなく、三寸ばかりの鮠が釣れ、ついで二尾釣れた。金色を沈めた黒い肌がぬめぬめと光り、手の中でぴちぴち跳ねると、強く水苔の匂いがした。甲斐はそれをみな水へ放した。釣りあげて、鉤から外すと、そのまま水の中へ放してやり、放された鮠が、白い腹をひらめかせながら、すばやく、流れの中へ消えてゆくのを、甲斐は楽しげに見まもるのであった。――こうして、五尾めに釣ったのを放してやったとき、脇のほうで、そっと呼びかける声がした。
「どうして、逃がしてしまいますの」
甲斐はゆっくり振向いた。
そこに宇乃が立っていた。