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あわもりものがたり

『たぬき汁』以後

佐藤 垢石

佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页

青空文庫

食指談

一

蕎麥は、春蕎麥よりも秋蕎麥の方が、味香共に豊かであると昔からいわれているが、その理屈はともかくとして、このほど上州赤城の中腹室沢の金子豊君から贈って貰った秋蕎麥は、近年まれにおいしかった。老妻が麺棒を握って額から汗を流している間に、私は疎開のとき東京から持ってきた霞網を麥田と菜畑との間に張って雀数羽を獲り、これを汁のなかへ入れて雀蕎麥を作ったところ、これが甚だ珍味であったのである。折柄、屋敷の隅の老梅の根方に、蕗の苔が小さい頭をだしていたので、これをつまんで薬味として加えたところ、鼻の奥に涼香漂い舌端に爽烈の気を呼んで、思いがけなく心に佳饌の趣を催したのであった。

しかしながら、上州の蕎麥の味は、信州の蕎麥には及ばぬと思う。就中、富士見高原の蕎麥を絶讃したい。

富士見でも、高原療養所の小使が打った蕎麥が素敵である。釣友正木不如丘博士が療養所の院長であるが、富士見に香味優れた蕎麥と、蕎麥打ちの名手を小使として抱えていることが、院長の日ごろの自慢であるのである。数年前の盛夏、諏訪の霧ヶ峯へ博士の先導で友人数名と共に登ったことがある。そのときも博士は、山巓の草原まで小使手打ちの自慢の蕎麥切りを運ばせてきて、青空の下に嗜遊の宴を振舞った。