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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页
雪の上を、一人でとぼとぼと歩いていた。
すると、うしろから、
「賢彌、賢彌」
と、呼ぶ者がある。この積雪の山中で、わが名を呼ぶ者はいない筈だ。妙なことである。あるいは耳の錯覚ではないかと考えたが、それでも後ろを振り見た。見ると頭髪も鬚髯も真っ白な老爺が雪の上を歩いてくる。熊の皮の甚兵衛を着て、もんぺと雪踏をはいているのである。賢彌に近づくと、
「お前は賢彌じゃろうな、するとお前はわしの曾孫じゃ」
白髪の老人であるが淡紅の童顔に、声も若い。突然、こういわれても賢彌には、どういう意味のことであるか分からぬ。ただ、面喰らうよりほかなかった。
「さとれぬか、そうでもあろう」
と、老爺はひとりで呟いた。そのとき賢彌の胸に、祖母からきいた話の、遠い記憶が甦ってきた。
「では、あなたは裕八郎お爺さんではありませんか」
賢彌は、凝乎と老爺の顔を見た。
「そうじゃ、分かったか」
莞爾として老爺は、顔を綻ばせた。
「まだお達者でいたのですか」
「達者じゃ、矍鑠としちょる。沼之上へ帰ったら皆の者によろしく伝えてくれ」
「もうお爺さんは、九十幾歳にもなるじゃありませんか。なんで、こんな山の中へ入り込んで暮らしているのです、一緒に帰りましょうよお爺さん。