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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

七

と云いかけて、そのまま黙った。茂次は茶を啜りながら、おりつを見た。

「なんだ」と茂次が訊いた。

「お礼が云いたかったんです」とおりつは俯向いて云った、「あの子たちを置いて下さると聞いたとき、あたしうれしくって」

「わかったよ」と茂次は乱暴に遮った、「そんなことより、もっとほかに話があるんじゃあないのか」

おりつは眼をあげて茂次を見た。

「ねえのか」と茂次が云った。

七

おりつは「おゆうさんのことですか」と訊き返し、茂次が黙っているのを見て、きっぱりとかぶりを振った。

「ほかのことはともかく」とおりつは云った、「あたしは明きめくらだし、行儀作法もよくは知らないんですから、そのほうはおゆうさんにやってもらいたいと思うんです」

「ほんとだな」と茂次がだめを押した。

「ほんとうです」

「そんならいい」と茂次は頷いた、「――もしうまくいかなかったら、そう云ってくれ」

二人が顔を合わせたときから、こいつはまずいぞ、と茂次は思った。おゆうはさりげなくふるまっていたが、おりつの表情には反感とねたみがはっきりあらわれた。気の強い点では負けず劣らずだが、そだちや教養では格段に違うから、おりつがそれをひけめに感じ、反感やねたみを唆られるのはやむを得まい。