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ちいさこべ
ちいさこべ
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页
「それがどうしたんだ」
「それがちいさこべよ、知ってるんじゃないの」
「どうしてそれがちいさこべなんだ」
「天皇はね、お蚕さまを集めて来いって仰しゃったんですって、天皇だからさまは付けないで、ただこって呼びすてにするでしょ、おかいこがしたかったので、こを集めて来いって仰しゃったら、その人よその子をうんとこさ集めて来たのよ、それで天皇が笑って、ちいさこべのすがる、っていう名をお付けになったんですって、そうでしょ」とおりつが云った、「だからここのうちもちいさこべだって、おゆうさんが云うの、いっそちいさこ部屋って呼べばいいって、――そんな大昔の話がすぐ出てくるんですもの、やっぱり学問がなければだめだって思っちゃったわ」
「仮名の読み書きぐらいできるほうがいいが」と茂次が云った、「学問まですることはねえさ」
「あら、読み書きと学問は違うの」
「誰か泣いてるぜ」と茂次が云った、「あつぼうじゃねえのか」
おりつは首をかしげ、「あっちゃんらしいわ」と云いながら立っていった。
十一月の中旬に、うちの建て増しをした。仕事の関係で、泊り込む職人が二人ふえたし、そうでなくとも子供たちといっしょでは、どっちのためにも具合が悪いからである。