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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

一

一

吉良の話しがあまりに突然であり、あまりに思いがけなかったので、紀平高雄にはそれがすぐには実感としてうけとれなかった。

「話したものかどうかちょっと迷ったんだけれど、とにかくほかの事とは違うからね」

吉良節太郎はつとめて淡白な調子で云った。

「なんでも梅の咲きだす頃からのことらしい、七日おきぐらいに逢っていたというんだが、そんなけぶりを感じたことはなかったのかね」

「まるで気がつかなかった」

「だって七日おきぐらいに外出していたんだぜ」

「願掛けにゆくということは聞いていた、たしか泰昌寺の観音とか云っていたように思うが」

「それが不自然にはみえなかったんだね」

吉良はこう云ってから、ふと頭を振り、口のなかで独り言のように呟やいた。

「いかにも紀平らしい」

それは彼が高雄に対してしばしばもらす歎息であった。高雄の弱気に対して、善良さに対して。感動したばあいにも、また咎めるようなときにも、そう歎息することで彼は自分の気持を表現した。高雄は眼を伏せたまま遠慮するようにきいた。

「それで、相手も見たのかね」

「見たよ、森相右衛門の三男だ、知っているだろう、森三之助」

「――と云うと、たしか江戸へいった」