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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
父親の幸助もそれに同意とみえて、かなりいい縁談にもはかばかしい返辞をしなかった。
――久尾の家名などといっても、しょせんは高の知れた小足軽のことだし、へんな者を婿にして、ゆくさきおいちに苦労させるのも可哀そうだから。
卒中でよく舌のまわらない幸助は、そんなふうに云ってどの話しをも断わった。……その頃は世の中が一般に爛熟期といったぐあいで、貧富の差もひどく、人情風俗も荒れていた。貧しい多数の人たちが餓えているのに、富裕な者はその眼の前で贅沢三昧をして恥じない。武家でも富んだ町人から持参金付きの嫁や婿を入れて、それがさほど稀なことではなくなっていた。……男女間の風紀などもとかく紊れがちで、いろいろといやな噂さが多かった。幸助が婿養子の話しに乗らなかったのは、こういう世相から推して、来て呉れる人間に信頼がもてなかったらしいのである。
おいちが十五歳の春に幸助が死に、ほんの三月ほどして、あとを追うように母も亡くなった。その少しまえから、おいちは縫い物や解き物をしに、紀平の家へしばしば来た。高雄は知らなかったが、母の伊世がひじょうな気にいりで、特別にひいきだったらしい。