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ひやめしものがたり
ひやめし物語
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页
それで大四郎の不拘束なやり方が、ますます際立つわけである。
「たいへんなやつがいるものだ」小座敷の客はこう呟きながら始終をじっと眺めていたが、やがてこの家の主婦とみえる女が、酒を代えにはいって来ると、「あれは馴染か」と、低い声で訊いた。
「さあ、おみかけ申さない方のようでございますね」
「馴染でなかったら頼まれて貰いたいことがある、聞かれては悪い、寄って呉れ」
そしてこの客は、なにごとか主婦に囁いて聞かせたのち、間もなくその小座敷から立っていった。
大四郎は心持よく酔っていた。酒もうまいし肴もうまかった、若葉の樹立を透して見える浅野川の流れや、広びろとうちわたした草原の上に、眩しいほど真昼の光りの漲っている眺めも申し分がない、そのうえ胸算用をしてみるとたいてい飲んでも喰べても金は余りそうだ、河重などと云ってもこのくらいのものなんだな、こう思うとますますいい心持で、そのうちにいちどひやめし仲間を呼んでやろうか、などとおおようなことさえ考えた。……そうしているうちに女中が来て、申し兼ねるが座敷を変って貰いたいと云った。
「こちらへは間もなく大勢さまがみえますので、まことに勝手ではございますが」