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ひやめしものがたり

ひやめし物語

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页

青空文庫

「いやそれだけでは済むまい、届けて来た品にうろんがある以上、届けて来た人間に責任のない道理はないだろう、わしとしては、明らかに金の不足している紙入は受取らぬからそう思って貰いたい」

さすがに暢気な大四郎も、これにはむっとした。中の金が幾らあるか知ったことではない、わざわざ届けに来て礼はともかく、逆にうろんをかけられるなんて合わな過ぎる話だ、「宜しゅうございます」彼はこう云って紙入をふところへ入れた。

「それでは、持ち帰って元の処へ置いてまいりましょう」

「元の処へどうすると……」

「お受取り下さらぬというのですから、元あった処へ置いてまいります」

「待て、そうはなるまいぞ」

「然し他に致しようがございません」

「ないで済むか」老人は眼を怒らせて叫びだした、「武士たる者が、金に不審のある紙入を持参してなにも知らぬ、元の処へ置いて来るという挨拶で済む道理はない、またわしとしても済ませはせぬぞ」

これは、たいへんな爺さんにぶっつかったと思った。そしてこんな頑固爺にはなにを云ってもわかるまいと考え、面倒くさくなって、「ではお待ち下さい」と玄関の外へ出た。遣い残りの金では足らないので、肌付の金一枚をとりだし、それに一分を加えて紙入へ入れた。