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みずぐるま

みずぐるま

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页

青空文庫

そのときは東へ下る途中だったが、小田原城下で興行しているところへ、頼んでおいた宿からの手紙で、河内伊十郎の死んだことを知らせて来た。

――その赤児が若尾なのだ。と親方は云った。これまで詳しい話をしなかったのは、もし旅芸人のまま終るとすれば、侍の子などということは知らせないほうがいいと思ったからであるが、幸い弘田家へ引取られることになったので話す。これからは生れ変ったつもりで、弘田家の名を辱しめないように、りっぱな娘にならなければいけない。

臍緒書や系図は弘田家へ預けた。岩本一座とは、これで絶縁したと思え、そう云って孫右衛門は帰っていった。

――せめていちど、みんなに別れを告げさせてくれ。

若尾はそういって頼んだ、庄太夫のお産を見てからにしたい、とも云ったが、孫右衛門はこわい眼で睨みつけ「侍のお子が、そんなみれんなことでどうしますか」と叱りつけたまま、振向きもしないで帰っていった。

それから殆んど部屋にこもりきりで、食事も満足にとらず、若尾は独りで泣いてばかりいたが、七日めの朝、妻女の豊が来て、自分といっしょに朝餉を喰べようと云った。

「もう泣くのはたくさんでしょ」