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みずぐるま

みずぐるま

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页

青空文庫

十一

そうよ、決して油断はできないわ」

十一

その夜十時少しまえ、――中邸の侍長屋にある谷口修理の住居で、修理と和次郎が対座していた。そこは焼け出された人たちの合宿で、ほかに同居者が二人いるのだが、話をするために、よそへいってもらったのであった。

修理は半面を晒し木綿で巻いた顔を伏せ、片手で膝を掴んでいた。肩から吊っている腕と、半面を巻いた木綿の白さが、行燈の光りを吸ってさもいたましげにみえた。和次郎は眉をしかめ、怒りよりもむしろ深い悲しみのために硬ばった表情で、俯向いた修理の(蒼白く乾いた)額を強くにらんでいた。

「むろん遠慮することはない、若尾の素性を饒舌りたければいくらでも饒舌るさ。だが、うかつに饒舌っては悪いこともあるんだぜ」と和次郎は云い続けた、「――谷口、おまえはまた若尾に、おれの姉のことも話したそうだな、姉が懐妊して、それを恥じて自害したということを」

「おれは」と修理は慌てて云った、「それは弘田の将来ということを案じたから」

「わかった、それはもうわかった、問題は姉のことだ」と和次郎は云った、「――姉が懐妊していたこと、懐妊して三月めだったということを、おまえ、どうして知っているんだ」