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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
八
修理はそこの茶屋で待っていた。若尾はその芝居茶屋の混雑する店先へ修理を呼んでもらった。
「よく来られましたね」修理は女性的なあいそ笑いをした、「使いをあげたが、どうかと思っていたんです、いちどゆっくり話したかったのでね、さあ、あがって下さい」
「なにか御用なんですか」若尾は云った、「わたくし稽古がありますから、御用をうかがったら帰らなければなりませんの」
「ああそうか、貴女は中邸で道場を預かっているんでしたね」修理は恐縮したように、自分の額を指で突いた、「そう聞いていたのに、つい忘れてしまいましたよ、しかしどうですか、ひと幕ぐらいつきあえるんじゃないんですか」
「いいえ、そんな時間はございませんの、どうぞ御用を仰しゃって下さい」
「では改めてお逢いすることにしましょう、べつに用があるんではないので、よければ市中も見物させてあげたいし、ときどき逢って貴女のようすを弘田に知らせてやりたいと思うのです」こう云って修理はまた微笑した、「――私は弘田の親友なんだから、そのくらいのことをする義務があると思うんですよ」
八
修理の口ぶりがあまり自信たっぷりなので、若尾はその申し出を拒むことができなかった。