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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
六
――おかしなやつだ。こう思いながら、しかし和次郎のほうでも、なにやら眩しいような気持になるのであった。
六
その年(明和七年)の五月、藩主の松平周防守康福は所替えになり、石見のくに浜田へ移封された。もともと石州は松平家にとっては本領の土地で、康福の曽祖父に当る周防守康映は浜田五万石余の領主であったし、その後も津和野の亀井氏と交代で、ながく同地を治めていたことがある。そしてこんどの移封も、周防守自身が、かねてから希望していたのを、かなえられたものであった。
移封の事が公表されるのと殆んど同時に、若尾が江戸邸へ召し出されることになった。これは磯野女史の推薦で、姫君の薙刀の手直し役に選ばれたのである。――初め若尾は頑としてきかなかった、病気だといって部屋にこもり、三日ばかり断食もしたが、和次郎がよくよく話して聞かせたうえ、ようやく承知させた。
「これは若尾のためばかりではない」と和次郎は云った、「――亡くなった若尾のお父さんや、河内という家名のためでもあるんだ、こんどのお役を無事にはたすことができれば、河内の家も再興できるかもしれないんだよ」それからまた云った、「これは私にとっても、また父や母にとっても、のがしたくない絶好の機会なんだ」