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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
「それは、だって、――」修理は不安そうに眼をあげた、「それは、おれはそう聞いたように思ったもんだから」
「誰に、誰に聞いたんだ」
「誰にって、それは、人の名は云えないが」
「そうだろう、云えないだろう」と和次郎はゆっくり云った、「――姉がなぜ自害したか、その理由を知っている者は一人しかなかった、その一人というのは母だ、母は父にも云わなかった、こんど初めて、七年忌に当ってうちあけてくれたんだ、それまでは父もおれも、もちろん親族や姉の友達も知らなかった、こんどの七年忌で、初めて母から父とおれだけが聞いたんだ、しかも姉は、母にもなにも云わなかった。母のほうで姉のからだの変調に気づいて、どうするつもりかと案じているうちに、姉は黙って死んでしまったんだ、……谷口、おまえはこのことを知っていた、母のほかにおまえだけが知っていた、なぜだ、どうして知っていたんだ、谷口、おれから説明してやろうか」
修理は折れるほど低く首を垂れ、黙ったまま肩で息をしていた。居竦んだようなその姿勢と、はっはっという激しい呼吸とは、絶体絶命という感じをそのまま表わしているようにみえた。和次郎の呼吸も荒かった。